現在、音楽媒体として一般的なのはCDや半導体メモリでしょうが、以前はLPレコード、MD、磁気テープ(カセット、8トラ、オープン)と色々ありました。また、これらのもっと前にSPレコード(78回転でシェラック等を原料として作られたレコード。以下「SP盤」と言います。)と言うものが使われておりました。流石に私も原体験ではないのですが、歴史は長く、大正期から戦後まで長期に渡り親しまれておりました。
大作曲家のラベルが、自ら指揮したボレロとかラフマニノフ大先生が、自ら演奏するピアノ協奏曲なんて聴いてみたくありませんか。SP盤ならそれができるのです。この時代にはテープレコーダーが存在しないので、現在の復刻盤CDもマスターテープからではなく、SP盤から再録音したものなんです。(もちろん、SP盤も中、後期には真空管増幅器がありましたので、マイクを使って電気的に録音されてます。)しょうもないコピーCDよりもオリジナルのSP盤で聴きたいのが人間の性でしょ。(勿論、後期にはマスターテープが使用されてます。)
それと、年配の方で、SP盤を蓄音機で聴くと「凄くいい音ですね。」とか「本物の人間が歌っているみたいですね。」みたいに言う人が多く、その音の秘密を探ってみたいという気持ちもありました。
SP盤とは
1970年代はシングル盤(17センチの45回転盤で裏表各1曲が収録されたレコード、中央の穴が大きくドーナツ盤とも言った。)のことを略してSPとも表記していましたが、それは本来のSP盤が消滅していたから問題なかったのです。
その頃、他にLP盤(30センチの33回転盤でアルバムと言っていた。片面に20~30分収録できた。)EP盤(17センチの33回転盤で片面2曲が収録できた。現在ではシングル盤のことをEP盤と言うこともある。コンパクト盤とも言った。)12インチシングル(30センチの45回転盤で1980年代に流行った。シングル盤の別ミックスとかに制作された。)等色々な盤がありましたが、全て塩化ビニール製で軽く、たわみ、割れない素材でした。
しかし、SP盤は瀬戸物の様に、重く硬い素材で作られており、力を加えると直ぐに割れたりしました。(小学生の時に、古いものだからもう聴けないよ、と音楽の先生が言うので、割って遊んでいた。)また、78回転だったので30センチ盤で片面5分、25センチ盤では3分しか収録できません。
製造されていた期間は、大正時代から戦後まででしたから、音楽媒体としてはLP盤よりも長く親しまれていたのです。(とは言っても初期の頃は大変高価なものでした。)生産枚数は、全盛期のLP盤には及ばないものの、昭和11年には3千万枚ものSP盤が生産されていたそうです。
歌謡曲ばかりでなく洋楽(クラシックやジャズ)もかなりの数が発売されていた様です。
↑ マーラーの交響曲第2番「復活」です。オーマンディ指揮ミネアポリス交響楽団で30センチ盤の11枚組、日本盤です。普段はアルバム(現在で言うジャケット)に入れてありますが、滅茶滅茶重いです。4、5キロ位ありそうです。
CDで聴くのにも気合のいる楽曲ですが、SP盤では、その何倍も気合が必要です。
↑ これはVDiscと言ってアメリカ本国から進駐軍に配られたレコードです。78回転の塩化ビニール製のSP盤で、世の中がSP盤からLP盤に移行する一寸前の時代のものです。30センチ盤で片面6分程度ですから、LP盤に換算すると15分程度の収録でしょうか。(見た目はマイクログルーブです。)これは通常の蓄音機(鉄針)で掛けてはいけません。電気再生しましょう。音は、やはりLP盤に近いもので、流石はアメリカと思わせるものです。(ただしSP盤の荒々しさ(実在感)はありませんし、録音レベルも通常のSP盤と比較し低いです。)
HMV102
これはポータブル蓄音機のHMV102です。蓄音機というと朝顔ラッパの機械を思い浮かべる方が多いのではないかと思いますが、それは初期の古い蓄音機で、後期にはホーンが筐体に内蔵されたものが普通であったようです。私の感覚からしても朝顔ラッパのホーンは不細工に感じます。当初、私はSP盤が聴きたくて電気再生を試したのですが、結局のところ蓄音機が一番良い音で聴かせてくれます。まあ、市場にはかなり高価な蓄音機もありますが、私はこれで十分です。(この時代の内蔵ホーンは、寸法も正確に計算されていて、現在のホーンスピーカーの主流であるエクスポーネンシャルホーンが使われていたようです。)
しかし、この蓄音機、音はそれなりに良いのですが、再生するたびに鉄針から粉が出てSP盤そのものが削れているのが分かりますし、鉄針自体も拡大鏡で見るとかなり削れています。(1面かけるだけでです。)鉄針にはサウンドボックス(振動板のユニット)の重さが全て掛かります。これでは精神衛生上良くないので、じっくり聴くとき以外は電気再生の方が良いと思います。(電気再生の場合は普通のカートリッジを使用すのでレコードは傷みません。)
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外観
アタッシュケース型の箱です。重量は7、8kですが、長辺は40cm程度とコンパクトです。
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内部構造
ホーンはエクスポーネンシャルに広がります。丸いコネクタから上にトーンアームが接続されます。音道の広
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ホーン
こんなホーンが筐体に内蔵されてます。音道の広がり方が絶妙です。まるで楽器のようです。
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サウンドボックス
針には150グラムほどの重さがかかってます。LP盤の100倍です。盤は瀬戸物のように固いです。
蓄音機再生上の注意
SP盤をLP盤の様にエッジとレーベルで掴み蓄音機に掛けようとすると、大概、年配の方から怒られます。レコードは貴重なものですからそんな不安定な持ち方はダメなんだそうです。音溝を鷲掴みにするのが基本です。LP盤は指紋等でも雑音が発生しますが、SP盤はそんな軟ではありません。
ただし、あらえびす氏は指紋の清掃にお手伝いさんを専属で雇っていたそうで、指紋によるカビは発生するみたいです。
できれば白手袋で扱いたいと思っていますが、使いたい時に周りにあるとは限りません。LP世代としては、LP持ちに慣れており、やはり一番扱いやすく、理にかなっていると思うのですが。
↑これは鉄針を入れる針箱で、幅が4センチ程度のキュートな金属缶です。HMV102の上蓋の右隅に収納できるようになってます。
SP盤の音質は
結局SP盤の音はどうなのかと言う問題ですが、なかなか難しい問題です。蓄音機で聴く音楽は、現在の電気を使う再生方法と全く異なるからです。冒頭に書いた年配の方々の意見も凄く分かります。(若い人にも聴いていただきたいと思ってますが)お世辞にもハイファイとは言えませんが、本当に魅力的な音です。特にクラリネット等の管楽器は、ホーンの特性が合うのでしょうか、リアルに思わせる音質です。
蓄音機は孤高の装置(楽器?)で、何とも比較のしようがありません。蓄音機同士とか電気再生装置同士であれば優劣を比較できるのですが、蓄音機を電気再生装置と比較するのは難しいのです。蓄音機は、どちらかと言えばオルゴールに近い機械ではないでしょうか。そう考えれば凄く良い音です。
ところで、蓄音機と言うのは、何故か無性に他人に聴かせたくなります。不思議です。