SP盤(SPレコード)をじっくり聴くのには蓄音機が良いと蓄音機の頁で言いました。しかし、この蓄音機に使用されているサウンドボックス(鉄針と振動板のユニット)ですが、再生するたびに鉄針から粉が出てSP盤そのものが削れているのが分かりますし、鉄針自体も拡大鏡で見るとかなり削れています。(1面かけるだけでです。)蓄音機もSP盤も身を削って音を出してくれている訳ですが、これでは申し訳なく、精神衛生上も良くないので、じっくり聴くとき以外は電気再生の方が良いと思います。(電気再生の場合は普通のカートリッジ(勿論SP盤用の太い針の付いたもの)を使用しますのでレコードは傷みません。)
ここで問題となるのが
◎78回転ができるレコードプレーヤー(→意外に多く売っています。パナのSL-1200mk2もどき等)
◎SP盤の太い溝がトレースできるカートリッジ(→これも意外と売っている。)
◎フォノイコライザー
となります。今回は3番目のフォノイコライザーを自作しましたので紹介したいと思います。
SP盤の電気再生
先ずは電気再生の注意点として、HiFiスピーカーの使用は厳禁です。安っぽいのもどうかと思いますが、市販の特性の良い(軽いコーンで能率の高いもの)ウーハー使うとよい音がします。間違っても3ウェイとかはダメです。また、カートリッジの針は太いものを使った方が雑音が小さいようです。(勿論、盤によりますので一概に言えることではありませんが。)
↓ 下は、SP盤を電気再生するために自作したフォノイコライザーです。
SP盤時代の最後期には電気式蓄音機(モーターでターンテーブルを回し、ピックアップ(カートリッジ)で信号を受け真空管で増幅しスピーカーで聴く)が主流でした。今のレコードを聴くのとほぼ同じ装置です。しかし、現在、電気式蓄音機は存在しません。(今のLP盤レコードはビニール製で音溝の大きさも、回転数もSP盤とは大きく違います。)
蓄音機以外で(電気を使用して)SP盤を聴くための機器として、プレーヤーはパナのSL-1200mk4(又はそれに派生したもので78回転付きのもの)、カートリッジは数社からSP盤用等が市販されてますが、フォノイコライザー機器は売っていません。そもそもSP盤は時代やメーカーによりイコライザーカーブが異なるので、汎用性を持ったイコライザーができないのです。じゃあ作れば良いと言うことで製作しました。写真が製作した「78RPMイコライザー」です。
しかし、レコードを作る側もいい加減だったので、設定されたイコライザーカーブなんてあてになりません。(回転数だって本当に78回転かどうかも微妙です。)再生周波数バランスに不満があれば、グラフィックイコライザー等(トーンコントロールでも十分)で調整しちゃいましょう。(古いレコードをCOLUMBIAだ、DECCAだ、LONDONだ、と喧々諤々するのはナンセンスです。自分が聴いて心地よく調整しちゃいましょう。そもそもトーンコントロールとは、そう言う補正に用いるべきものだったんです。)
ちなみに製作したフォノイコライザーの特性は、ターンオーバーが250と500Hzの2種、ロールオフは0、-5、-10、-14、-16dBの5種、計10種の切り替えが可能です。(SP盤はイコライザーカーブに拘るほど音質がよくありません。おおらかな気持ちで聴きましょう。)
大概のSP盤は、ターンオーバーを250Hz、ロールオフを-10dBにしておけばOKです。
製作過程(プリント基板、ケース、パネル)
若い人はプリント基板を製作したことがない人が多いようなので、その辺を中心に照会したいと思います。専用の機器も市販されているのですが、趣味で製作する場合は、適当なもので代用しましょう。露光器だって蛍光灯スタンドで十分です。(ICのピン間に配線する様な極細パターンを作る訳ではないので。)注意点としては、感光時にフィルムと感光基板が密着してないと失敗します。私はガラステーブルにガラス板で挟んでます。
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パターンの作成
パソコンでプリント基板の裏面の配線(プリントパターン)を作成します。フリーソフトを使ってます。それを専用のフィルムに印刷します。
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感光
感光ポジ基板の上に印刷したフィルムを載せ、蛍光灯で感光させます。(フィルムは2枚重ねにしています。一般市販のインクでは少し薄いみたいです。)
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現像
感光させた基板を現像すると、感光しなかった部分が残ります。この時点で成功か失敗か分かります。
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エッチング
基板をエッチング液(塩化第二鉄溶液)に浸し、銅の部分を溶かします。少し温度を上げ揺すると溶けるのが早いです。
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水洗い
銅の部分が完全に溶けたら流水で洗いします。
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穴開け
部品が差し込める様に0.8mmの小型ドリルで穴開けします。部品によっては1mmを使います。
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インクを落とす
パターン面のインクを再感光、再現像、または、アルコール、シンナーで落とします。その後、錆止めのフラックスを塗ります。
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部品のマーキング
部品面に部品が分かる様マーキングします。マッキー極細で書いてます。
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部品の半田付け
部品を半田付けしてプリント基板の製作は終了です。
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リード線端子
リード線端子は2mmのハトメ端子を使用しています。ラグはなくても良好です。
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ケースの加工
タカチのサイドボード付きアルミサッシケースを使用しました。完全分解可能な優れものです。
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ケースの穴開け
底、全面、背面、それぞれの盤が分解できるので穴開けがとても楽です。大きい穴はゆっくりの回転で作業しないと中心がずれます。
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インレタ
文字入れはインスタントレタリングを使います。今回は(有)アドマの大滝さんに特注しました。(市販のアルファベットインスタントレタリングは滅多に見かけなくなりました。)
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文字入れ
インスタントレタリングをボールペン等でこすってパネルに貼り付けます。油断すると要らない部分に張り付きます。その時はセロテープで剥がします。
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文字の固定
水性アクリル塗料スプレーの艶消しクリアーを吹きかけます。最初はドバッとでるので、スライドさせながら数回に分けて塗布します。仕上げは同色の油性アクリル塗料スプレーを使用しています。
完成
中身はこんな感じです。
下は回路図です。(→後にステレオ化)
異常事態発生
最初はVestaxのVR-7SPと言うSP盤用のカートリッジを使っていたのですが、盤によっては、DL-103(LP盤用)の方が良い音で再生するではありませんか。特に録音レベルの高いSP盤ではDL-103の方が明らかに歪み(と言いますか、明かな音割れです。)が少ないのです。最初は、このフォノイコライザーが歪んでいるのかと思いましたが、別のフォノイコライザーに接続しても同じ結果です。どう言うことでしょう。
色々試した結果、理由は、おそらくこうだと思います。
SP盤は78回転ですから、トレース時の線速度が速くカートリッジの出力電圧がLP盤よりも高くなります。また、音溝の振幅が広く、そこでもまた出力電圧が上がります。LP盤用のMMカートリッジの針先を大きくしただけのVestaxのVR-7SPでは歪んで当然です。
ステレオテストレコードを持っている人は分かりますが、特に小型のカートリッジでは+6デシベルのレベルで結構歪みます。以前、DL-301とDL-103をテストレコードで試したことがあるのですが、DL-103の方が圧倒的に過大入力に強いのです。
これは、本格的なモノラル用カートリッジ、それもSP盤用を導入するしかありません。
そこで、カートリッジをSP盤専用のMC、オーディオテクニカのAT-MONO3/SPに替えました。それと、定番であるステレオLP盤用のDL-103も使用可能な様にフォノイコライザーを頑張ってステレオ化することとしました。
それとともに、LP盤でも使用できるようにS/Nを向上させなければいけません。

↑ アンプ部の基板をもう1枚製作します。左端の電源部は既設と共通なので部品は取り付けてありません。感光ポジ基板は、プリント基板を追加製作したり、複数製作する場合には超便利です。今回は、前回製作したフィルムが残っていたので簡単に基板を作ることができました。また、サンハヤトのマグネットクランプ(PKC-120)なる固定器具を購入したので、より確実に製作できました。このクランプ、凄くよくできています。初めから買っておけば良かったと思いました。
↑ 新しい基板を既設基板の下側に挿入しちゃいました。こう言う具合にステレオ化することを「QUAD22方式」と言います。
↑ 見た目は大して変わりませんが、ステレオになりました。既設の基板(上側)はシャーシ(グランド)から浮いてしまうので、下にシールド板を敷いてあります。(クリヤケースを切って銅箔テープを貼っただけですが。)
当初、MMのモノラル専用で設計していますので、低出力電圧のMCカートリッジのDL-103を接続した場合、S/Nが少し悪かったのですが、使用するオペアンプを超ローノイズのADA4625-1(初段)及びOPA828(終段)に変更し大分改善しました。両方とも形状がSOPなので、変換基板を用いDIPにします。ディスクリートに負けない低雑音オペアンプです。DL-103を使用しても実用上の問題はありません。(→後に全てADA4625-1にADA4625-1に変更)
最初に使用していたOPA604は、音質は良いのですが、雑音特性は並みのオペアンプと同程度です。SP盤再生では盤のスクラッチ雑音の方が大きく何の問題もありませんが、クラシックのLP再生では、pp時におけるバックノイズの「サー」雑音が少し気になります。
なお、オーディオテクニカのAT-MONO3/SPなら高出力電圧仕様なので、OPA604でも大丈夫です。
↑ 左がOPA828、右がADA4625-1です。
最新型の超ローノイズ(低雑音)オペアンプはSOP型しかなく、DIPに変換しないとソケットに入りません。変換基板は100円以下とお安いのですが、1.75mmピッチの足にはんだ付けするのが大変です。若ければ何ともないのですが、老眼世代には骨が折れます。また、ADA4625-1はICの裏が放熱パッドになっていて基板の放熱パターンにはんだ付けする必要があります。(最初、放熱パターンのない変換基板を購入し失敗しました。)
2種購入したのは、どちらか雑音の少ない方を初段に使用しようと思ったからです。結果的には初段、次段ともADA4625-1でOKです。(→後に全てADA4625-1に変更)

↑ 基本的な回路はモノラル時と変わってません。普段使っているDL-103+フォノイコライザー(ヤマハHA-2)とAT-MONO3の出力レベルを合わせるため、終段のゲインをモノラル時の6倍から11倍に上昇させました。入力インピーダンスは47キロオームとしておりますが、これはMMカートリッジに合わせたからです。MCは指定インピーダンスよりも高く受ければ性能に影響ありません。オペアンプ用の電源はIC変更に伴い±18Vにしました。
緊急事態発生(その2)
膨大なハムの発生
本機を最初に製作したのが2016年でした。それから何の不都合もなく2021年にステレオ化しました。現在(2025年)は、EQカーブ補正器経由でプリアンプに接続しているのですが、電源投入のタイミング?によって膨大なハム(ブーン音)が出る時があります。
その時、シャーシに触れるとハム音が減少します。アンプを自作したことがある人なら分かると思いますが、これはシャーシへの1点アースが崩れているか、シャーシがアースされてない時の現象です。
昨日今日アンプ作りを始めた初心者じゃあるまいし、ハムなんか出していたら近所を歩けません。これはいかんと思い早速中を開けてみました。
ところが悪いところがありません。「これは何かの間違いだ。」と思い、もう一度プリアンプを接続します。ところが、何の異常もありません。不思議に思い元の接続(EQカーブ補正器を経由)に戻すと膨大なハムが出ます。これは一体どうなっているのでしょう。
接続する機器によりハムが出ると言うのは、やはりアース配線の処理が問題と思われます。
自作マニア?がハムなんて直ぐに直さないと笑いの種になってしまいます。
少し違和感がありましたが、次の点を改良しました。
① リレー付近を触るとハムのレベルが変わったので、リレーを銅箔テープでシールドしました。
② 電源基板からアンプ基板への電源配線をLチャンネルアンプ、Rチャンネルアンプ別々に2本で配線していましたが、これをを1本にしてLチャンネルに供給、送り配線でRチャンネルに供給することにしました。
③ 電源基板~アンプ基板間のGNDラインはアンプ基板の出力端子のGNDに接続変更しました。
④ シャーシへのアースは電源基板の出力GND端子から接続していたのですが、これをやめアンプ基板の入力端子のGND側(背面パネルの入力端子のGND側)から接続しました。
ところがどんな改良をしても改善しません。まるで高校時代に初めてのアンプを作ったときみたいで新鮮ですが、めちゃ疲れます。
タカチ金属ケースの欠点

↑ これは、今回使用したケースの分解図です。タカチのウッドパネル付きアルミケースはサイズが豊富で外観も良く大好きです。前面パネルと背面パネルはアングルの溝に嵌って固定されているだけで、電気的に不安定です。(塗装のないシルバーのパネルならこんなことはないかも。)工作するのには凄く便利なんですけどね。
ハムの原因
これは根本的にダメなところがあると判断し、色々調べた結果分かりました。ケースにはタカチのサイドウッドケース WOシリーズを使用したのですが、このケース、6面の金属部分全体が導通している訳でなく、前面パネルと背面パネルがシャーシ(底面及び側面)から絶縁されているのです。(最初の内は接触していたと思う。)前(背)面パネルは上下のアルミアングルで挟まれて固定されているだけの構造なので電気的には不安定なのです。
前(背)面パネルをリード線で底板と接続することにより全てが解決しました。
↑ 背面パネル(左写真)は入力端子のGNDからパネルのビスにラグを付けアースしてます。ここをシャーシ全体のアースポイントとしました。前面パネル(右写真)はパイロットのネオンブラケットから底面シャーシにリード線で接続します。
背面パネルは本来のシャーシアースポイント(入力端子の取付ビス)から底面シャーシ接続しました。見方によってはシャーシへの2点アースになりそうですが、特に雑音の発生もなく良好でした。
リレーのシールドはアンプ基板の入力端子のGND側に接続しました。(このシールドは無くても大丈夫と思いますが、折角付けたものを撤去する理由もないのでそのまま付けてあります。)
↑ 上基板(Lチャンネル)の底板となるシールドはクリアケースに銅箔テープを貼って底板に接続してあります。これがないと上基板のS/Nが悪化します。(ステレオ化の時に設置しました。)
また、リレーのコイルと並列に電解コンデンサーを挿入し、リレーの復旧時間を遅延していたのですが、切り替え時に火花が飛び、ノイズの原因になるので撤去しました。
↑ シールド板をあちこち設置しているときにRチャンネルのオペアンプ(下側基板の終段)が1個飛んでしまいました。(そそっかしくてよく破壊する。)この際、両チャンネルの全てのオペアンプをADA4625-1にすることにしました。
結果
こんな金属ケースのちょっとした導通不良がハム雑音の元になるなんて知りませんでした。
今は、前に使っていた時よりも実行S/N(プレーヤーを接続した時のS/N)が良くなりました。プレーヤーを接続しプリアンプのボリウムを目一杯上げてもホワイトノイズしか聞こえませんし、ホワイトノイズ自体も大分減少しました。
やはり、入力端子のGND側をLR接続しシャーシに落とす昔ながらの方法は効果があります。電源基板や出力端子のGND側でシャーシアースをとる方法もありますが、本機の様なLRのアンプが独立の基板だとループができやすく難しいのです。
タカチのケースはよく使うのですが、パネルが電気的に絶縁されているのは大きな欠点です。メーカー側も取扱説明書に注意書きをしておく必要があるのではないでしょうか。(鈴蘭堂やアイデアルでこんな目にあったことないです。)
ちなみに「無線と実験」誌で同じ種類のケースを使った製作例が無いか探したところ、ありました。ちゃんと各パネルの導通をとるように注意書きがありました。(流石は長
真弓先生)
↑ 音質と見た目は比例します。やっぱヘッド部分は大きい方が安定性があります。
オーディオテクニカさん、適切な価格で販売していただいてありがとうございます。DENONさん、もうこれ以上の値上げはしないでください。
音質
「モノラル盤はモノラルカートリッジで聴け!」みたいな諸先輩からのアドバイスも聞かずに今まで過ごしてきてすみませんでした。今回、オーディオテクニカのAT-MONO3/SP及びAT-MONO3/LPを購入しましたが、VR-7SPやDL-103とは全然違います。
特に私はDL-103大好き人間だったので、DL-103を信頼し、モノラル盤でも使用しておりました。ブルーノートのモノラルラウド盤等で音が歪んだり雑音が出るような場合、「中古だからしょうがない。前の持ち主が散々聴き倒し、溝が傷んだのだろう。」と思っていました。
間違っておりました。DL-103がモノラル溝に対応できなかっただけでした。
気分が晴れ、SP盤の電気再生は勿論、LPのモノラル盤に対し違和感がなくなりました。これでSP盤をもっと楽しめそうです。(ちなみにVR-7Sは捨てました。)
なお、SP盤の電気再生には、鉄針が通ってない部分(鉄針は溝の底を通るみたいです。)の溝の壁面をカートリッジのダイヤ針が通るようにした方が良い見たいです。太いVR-7Sの針の方が良い場合もあるかもしれません。(知らんけど。)