トーンアーム

トーンアームって物凄くマニアックな感じがします。
一寸前(って言うか1970年代から80年代)は、レコードを聴くのにレコードプレーヤーを買う奴は初心者で、マニアだったらターンテーブル、プレーヤーボード、トーンアーム、カートリッジをバラで購入し組み立てたものです。

とは言うものの、当時、貧乏な学生にそんなにお金がある訳でもなく、とりあえずバイトで稼いだお金で、安いシステムプレーヤー(今でいう普通のレコードプレーヤー)を購入し、カートリッジだけは良いものをと考え、雑誌の批評を見たりして検討したものです。
今から考えれば非常に浅はかなのですが、当時はこう考えていました。

①レコードプレーヤーの音はカートリッジで決まり、ターンテーブル等は音に関係ない。
(レコードプレーヤーの音声出力ってカートリッジに直接繋がってるだけで、プレーヤー本体は繋がってないですから。)
②ターンテーブルは回転速度が安定していればどんなものでもOK。
③トーンアーム?ただのパイプじゃん。
④プレーヤーボード?ただのべニアじゃん。

こんな感じで1、2年使っていたのですが、レコードによって低音(結構低い低音で50ヘルツ位?)が歪んだり、反ったレコードをかけると音飛びすることがあり、一寸高級なDENONのDPー57Mに買い換えました。

今思えば、これが泥沼の始まりです。今まで使っていたレコードプレーヤーと雲泥の差、月とスッポン、ピンとキリ程の差があります。
AMラジオがFMラジオに変身したかのようです。細かい音や繊細な音がはっきり聞こえます。よく言うベールを剥がしたかのような音です。
今まで使っていたカートリッジをそのまま使っている訳ですから、どこでそんなに音が変わってしまったのでしょう。

↓ これがDENONのDPー57Mです。現物の写真がありません。カタログです。

 

音質向上の理由

DP-57Mはアームパイプが2本付属(ストレートパイプとS字パイプ)しており、使用するカートリッジにより取り換えることができるマニアックな商品だったのです。しかし、取扱説明書にはユーザーが好きな方を選択して使ってくれとしか書いてありません。
当時の流行はストレートアームで、カートリッジも軽針圧のハイコン物が大流行しており、私もそんなものを使っており、それの組み合わせが偶然バッチグーだった訳です。
また、当然のことですが、低音で音が歪んだり、反ったレコードで音が飛ぶ様なこともなくなりました。

それと不思議です。
ただのパイプだと思っていたトーンアームなのですが、これを交換することにより物凄く音が変わりました。当時使っていたカートリッジではストレートパイプでは切れた音がするのですが、S字パイプでは「まあまあ」って感じで冴えません。
また、DPー57Mにはダンプの調整も付いており、トーンアームの急激な動き(レコード反り等)を制御するように作られていました。この電子制御トーンアームは現在では作られていませんが、当時は最新鋭の機能だった訳です。これを使うことにより音質も多少変化しますが、トレースの安定性と音質は関係ないみたいで、この機能は「0」にした方が音が良かったと記憶しています。

↓ 下の様にアームパイプが2種付属していました。(オーディオ道の入門機の役割を十分果たしています。)

 

DLー103

現在、家のシステムではDL-103と言うDENONのカートリッジを使用しています。(馬鹿の一つ覚えの様に数十年これだけを使っている。)しかし、このDL-103ですが、あまりにも有名なカートリッジです。一般的な評価は当時から高く、その昔、天邪鬼だった私としては、食わず嫌いな感じで使っていませんでした。それは

①誰もが良いと言うものにろくなものがない。(と思っていた。)
②針圧が2.5グラムって時代遅れ。(と思っていた。)
③形が不細工。(と思っていた。)

そんな評価も一曲で吹っ飛びました。流石にNHKで採用(開発)されたものだけのことはあります。(今まで使っていたハイコンのカートリッジとストレートパイプは捨てました。)
最初にDL-103を導入した時のことですが、上記のストレートパイプは、今まで使用していたカートリッジが付いておりますので、余ったS字パイプを出しきて使いました。これが凄く幸運でした。たぶん、ストレートパイプでは冴えない音になっていたと思います。(「やっぱりダメじゃん。」と言って、ほかっていたと思います。偶然の神様ありがとう。)
DL-103は針圧2.5グラムのローコンカートリッジで重いアームが必要だからです。一聴し、音が厚くなりました。
マルウォルドロンのレフトアローンなんかを聴くとジャッキーマクリーンのサックスの音が太いのです。シンバルの音もガシーンときました。

ところで一部の人からDL-103の音は、「流石はNHK規格、つまんない音だね。」とか「流石は放送規格、ハイもローも出てないね。」みたいな評価がありますが、全然当たっていません。これは日本人の悪い癖です。もっと自国に自信を持つべきです。こんな素晴らしいカートリッジを作ってくれてデンオンさんありがとう。そしてデノンさん、これ以上価格を吊り上げないでください。お願いします。

斎藤圭吾さんの「針と溝 stylus&groove」にインスパイアされ撮影してみました。スマホと10倍のルーペを組み合わせて接写してます。
なお、溝が写り安い様、盤は12インチシングルを使ってます。

 

DENON DA-309

しかし、人間と言うものは欲深いもので、単体のトーンアームだったらもっと良い音がするのでは、とか、単体のターンテーブルだったら物凄い音なのでは、とか考えてしまいます。
DL-103のベストなアームと言えばやっぱDENONかな、と言う気がしてDA-309を購入しました。1990年代以降には既に時代はCDに移行しており「あの時買っときゃ良かったー」が増えていった時代です。私のDA-309も2000年代に入ってから中古で購入しました。
しかし、もうこの時代になると良質な中古(それもジャンクで探そうとするのには)を探すのは大変です。特にトーンアームと言うのは純粋な機械製品なので、私の趣味とは少し異なるところがあります。(修理ができるか自信がありません。)

通販店のオジサンが「これは安くて美品ですよ。ガタもなく良好です!」と(電話で)言うので購入しました。
まあ、よくあることかも分かりませんが、
当然、音は出ます。音が出ない場合は不良品ですが、音が悪い、と言うのはクレームの対象にはなりません。ですが、オジサンに言いました。
「ガタあるじゃん。」
「うーん、まあ多少はありますよ。」
だったら言えよ、って感じですが中古商品(まあまあの値段をしていたと思います。ジャンク価格ではなかった。)に100パーセントの品質を求めてはいけません。自分で修理しましょう。
まず、カートリッジを外し、シェルのみとし、針圧を0にします。これでアームをふっと吹き、シェルが宇宙遊泳の様に無重力でゆっくり跳ねればよいと思います。感度が何ミリグラムかは音質とは関係ありません。
水平移動はスムーズです。水平ベアリングにゴミ等が付着した場合には動きが制約されますが、これはOKです。
しかし、垂直方向には全然動きません。たぶん垂直ベアリングのゴミが溜まっているのでしょう。分解です。

垂直軸受けはピボットベアリング構造となってます。ピボットベアリング構造とは、軸受けの尖った部分をベアリングのボールで受ける感じです。
上の写真の真ん中のマイナスねじがロックねじです。これは外しても問題ないでしょう。

ロックねじを緩めると、ピボットも一緒に外れちゃいました。ピボットは、先端の反対にヘキサレンチ(L型の棒状の六角)が差し込めるようになってました。
写真を撮るのを忘れましたが。ピボットの先端にキャラメルが溶けたようなプラスチックがべっとりしておりました。(どろっと溶けた感じでしたが、ベトベトではなく固まっていた。)

↑ 左がピボットの取り付け穴で、右側がピボットの先端を受ける軸受けが入っていた穴です。
写真を撮るのを忘れましたが、軸受けの穴の中に噛んだキャラメルみたいなプラスチックが入ってました。あちゃー、ベアリング軸受けじゃないじゃん。
「DENONさんどうなっとるの?責任者出てこい。」って感じですが、よく見るとキャラメルの溶けた中にベアリングが入ってました。

写真は綺麗ですが、堀った直後は溶けたキャメルの中に埋もれており分かりませんでした。直径5ミリほどの小型ベアリングです。
一晩アルコールに浸しておきましたが、変化ありません。次にラッカーシンナーに浸しましたがやっぱり駄目です。最後にプラモ用接着剤(タミヤの流し込みタイプ)に浸し、やっと綺麗にできました。
文献で調べると、溶けたプラスチックはゴム等の緩衝材の様です。ピボット先端に強い力が掛かった場合、打痕ができ、動きが制約されてしまうため、ゴム等を入れ衝撃を吸収する仕組みになってます。

↑ そのまま穴にベアリングを戻すとガタガタです。やはりベアリングを包み込む緩衝材が必要です。経年変化で固くなるゴム等が必要です。

ところがこんな穴に嵌るような薄いゴムがありません。日用品屋の隅から隅まで探し、大型ゴムブッシュ(リング型)の真ん中の部分(使うときに破る部分)が薄くて使えることに気付きました。これを定位置に挿入し、ほっておくとゴムの復元力でベアリングが飛び出しますので、手早くピボットを差し込まなければなりません。
アーム本体にピボットを差し込み、その先端がベアリングの真ん中に差し込まれる様、絶妙なテクニックで挿入します。ここまでは快感で作業が進みます。ヘキサレンチで微調整し、左右のピボットを均一に締めます。

ここからが地獄です。
上のロックねじでピボットが緩まないよう固定するのですが、ロックするとピボットが外側に引っ張られるので、ベアリングとの間に隙間ができ、ガタとなるのです。SMEなんかは元々ガタガタなので、音質上はあまり気にしなくても良いかも知れませんが、気になり始めるとどうしようもありません。
したがって、緩むことを計算しピボットを少しきつ目にしてからロックします。
ところが今度はきつく締めすぎ、垂直の動きが良くありません。シェルを手で動かすには支障ありませんが、無重力状態でふっと吹いても沈みません。またやり直しです。
これが無限地獄になるのです。
世の中妥協が大切なのですが、こういう趣味に限って職人の様になるのはなぜでしょう。仕事だったら絶対にやらないことでも趣味ならば一日中やってますもんね。(時には、明日が仕事でも夜中までやってますもんね。仕事だったらここまでできません。)

完成後は、また、ガタがないか手で確かめ、その後、針圧を「0」にしてふっと吹いてみたり、シェルをはじいてみたりしてしてシェルが何の抵抗もなく宇宙遊泳するか確かめます。DL-103の様なローコンで針圧も2.5グラムのカートリッジでは測定器で測るような高い感度は要りません。自由な宇宙遊泳で十分です。(細くて軽いアームと比較すれば感度当然下がります。)

SAEC WE-308SX

ところで、現在使っているのはSAECのWE-308SXです。DA-309には何の不満もありませんでした。
SAECのカンカン鳴く重いシェルを使おうとするとウェイトが合わず使えなかったので、SAECを使っております。(メンテが大変な不要なアンプを売り払い、ほぼメンテナンスフリーのSAECのアームと交換しました。アンプのメンテなんて必要?と思われるかもしれませんが、使ってなくてもスピーカーリレーの接点に酸化被膜ができ小音量での音が途切れたり歪んだりします。そうなると商品価値が下がりますので、早めに売り払った方が得です。)

アームボードは自作なので塗装の色が少し違います。ご愛敬です。
白いシェルが重い酸化アルミニウムシェルです。平たく言うとアルミナセラミックス製でしょうか。独特のキンキンした音が癖になります。こう書くと嫌味な音に思われるかも知れませんが、嫌味のない音なんです。
今でもヤフオク等で大人気の商品みたいです。
トーンアームなんて一生使える訳ですから、何本もあってもしょうがないので、不要な物を処分しようといつも思ってます。ただ、アンプやスピーカーと異なり保管場所が要らないものですからいつになっても手放せません。
常に次のアナログブームが来た時に処分しようと常に思ってます。
ところで、ターンテーブルは、現在、人気のないダイレクトドライブを愛用しております。しかし、音と耐久性は、絶対ダイレクトドライブです。このDP-80もずっと使っておりますが、電解コンデンサー以外、壊れたことはありません。