LPレコードのクリーニング作業は、レコードプレーヤーを買ってもらった高校1年当時からの課題です。振り返ってみると40年以上もそれで苦労しています。
当時、一番安いクリーナーは500円位の製品で、これが地獄の苦しみを与えてくれます。レコードを左手で持ち、右手でスイスイとレコード面をクリーナーでなぞるのですが、何回やっても埃が筋の様に集まるだけで、全然取れません。そればかりか筋をよく見ると粉が沢山付いてます。こりゃダメだと言う訳で、今度はレコードスプレーを吹きかけ同じ作業に臨むのですが、全く変化がありません。正に囚人を発狂させる労働です。
要は、拭いても拭いても改善がなく、レコード面が綺麗にならないのです。特に粉物質は、レコードクリーナーの方には付着せず、拭き終わった盤面のその場所に大量に付着するのみで、拭けば拭くほど逆にその量が増しています。
どうしようもない場合は、最後にセロハンテープで接着させ、取ったりしてましたが、最初は良くても、毎回やってるのもばかばかしく、時にはセロハンテープの糊が盤面に付着してしまいます。こうなるともっと強力なガムテープでその糊を取らなければならず、無限ループにはまります。
こんな状況ですから、ウンザリし、だんだん盤面の埃や粉を無視することにします。
年配の方の中に、レコードのパチパチ音は気にならないと言う人がいますが、この様な修行(苦行)を経験し、悟りを開いた人なのでしょう。
↑ こんな感じの廉価クリーナー。静電気は膨大に発生するし、レコード盤は削れるし、まさに苦行クリーナーでした。現在の廉価クリーナーがそんなに悪いのかは検証してません。(と言うか二度と使いたくない。)
ローラー式クリーナー
もうこんな生活やだ。と思い新しいクリーナーを購入することにしました。粘着式のゴムローラで埃を取ると言う新方式で、粘着力が弱くなった場合は水洗いで復活する優れものです。
しかし、このクリーナーの場合はレコードを左手に持ち右手でローラーを掛けると言う器用なことができませんので、すべてをターンテーブルの上で行うことになります。ここで発見しました。「なんて楽なんだろう。」と。
今までの作業は何だったんだろう。クリーニング作業はターンテーブル上で行うのが一番楽だと言う事が分かったのです。今では当り前かもしれませんが、当時の取扱説明書や雑誌には、レコードプレーヤーの故障の恐れがあるので、ターンテーブルの上でのレコードクリーニングは御法度となっていたのです。今なら「レコードの掃除で壊れるプレーヤーって何?」って感じですが、昔のローコストプレーヤーは軸受けも弱く、本当に壊れたのかもしれません。
それはさておき、ターンテーブル上で布クリーナーでスイスイ埃を集め、最後にこのローラークリーナーで埃をとると言う手法に切り替えました。ところがこのクリーナーですが、東芝EMI等の静電気の少ないレコードには結構な効果があるのですが、ポリドール等の静電気の強いレコードには少ししか効きません。また、レコードスプレーと併用すると拭き終わったところに線が残るのです。多分、スプレーの成分が集まってしまうのでしょう。
おまけに、ゴムローラーに埃が付着しているとそれが静電気でレコード面に吸着されて、ゴムローラーがクリーニングされると言う、腹の立つ逆現象が発生する場合もあります。
オーディオ好きの同級生から「レコードスプレーはヘドロになって音を悪くするらしい。」との情報(高須君ありがとう)もあったので、この時点でレコードスプレーの使用をやめました。
↑ ゴムローラー式のレコードクリーナーです。ゴムローラーは水洗いでき40年以上の使用に耐えてます。
同じローラー式のピクソールはいけません。目に見えない糊が盤面に付き、クリーニングどころかプチプチノイズの発生源になります。
自走式クリーナー
冒頭に書いた拭けば拭くほど発生する粉埃ですが、もしかしたら、クリーナーそのものから発生しているか、レコード自体から発生しているものかもしれないと言う疑惑が湧きます。レコードは塩化ビニールと酢酸ビニールでできています。(高校生ともなると色々なことに疑問を持ちます。先生の言っていることは真実なのか?と改めて思うのもこの時期の子供ではないでしょうか。)
布クリーナーは指で触れるととても柔らかいベルベット状になっていますが、500円位の安いものはアクリル製のものもありました。現在販売されているものは十分淘汰されてますので、こんなものはないと思いますが、一寸前までは存在していたのです。
いくらベルベットとは言えアクリルみたいな硬い素材で、ビニールのレコードをゴシゴシやればビニールが削れて粉を噴くのも当り前です。
と言う訳でローコスト布式クリーナーは捨てました。
この時点で世の中はCD時代に突入しました。
悪いことばかりではありません。職場の先輩から「もう使わないからあげるよ。」と言う訳で、日立の自走式クリーナーをいただきました。(水谷さんありがとう)テレビのリモコン程の大きさで、下側の端にスピンドル用の穴が開いており、そこにレコードプレーヤーのスピンドルを挿入しスイッチを入れると自分でグルグル回りレコードを掃除してくれる便利なクリーナーです。単三電池2本で自走し、おまけに静電気もイオン発生機構により中和してくれます。
これが恐ろしい程の効き目で目に見える埃はほとんど除去してくれました。気になるのは内部で自動車の洗車機みたいなブラシがブンブン回っていてレコードの音溝に影響はないのか?位のことでした。
しかし、機械は必ず壊れます。知らないうちに壊れてどっかに行ってしまいました。
現在のクリーナー
何のことはありません。オーディオテクニカさんの湿式クリーナー(普通のベルベット布のやつで、湿式と言いながらクリーニング液は使い切ってそのまま乾式として使っている。)を使用しています。(たまにローラー式も使ってます。3、40年も吸着力が変わらないなんて凄い製品です。)
オーディオテクニカさんの製品は、良心的な価格で良いものが多く大好きです。カートリッジなんかでももっと高く評価されても良いと思うのですが、日本では価格の高いもののみが評価される様です。
本当に良いものは生産数も多く、価格も抑えられているのではないでしょうか。
↑ 何のことはない布式クリーナーです。布式の中では一番クリーニング効果が高いです。静電気も発生しません。オーディオテクニカ製品はユーザーのことをよく考えてくれてます。オーディオテクニカ製品、廉価だし大好きです。
もっと効果の高いクリーニング方法
現在では中古レコード店でレコードを購入すれば、ほとんど問題なく新品同様のレコードを購入することができますが、リサイクル店で購入した場合は最悪です。値段もリサイクル店の方が安いとは限りません。インターネットが普及している現在、掘り出し物なんてほとんどありません。中古レコード店で500円以下で売られているようなクズ盤が1000円程度のこともよくあります。
おまけに中古レコード店ならば検盤も可能でしょうが、リサイクル店では野暮ったくそれもできません。
ただ、稀にですが、ブックオフ等のリサイクル店や各店合同のレコード市等で掘り出し物を見つけたりします。
大概の場合、そう言ったレコードはパチパチ音が酷く、このままでは鬱陶しいばかりか針を傷めたりします。
不思議なのは、盤面がピカピカなのにも関わらずパチパチが発生する場合で、この場合は何とかなるのではないかと思ってしまいます。(キズ盤は無理にクリーニングしない方が良さそうです。また、古い貴重盤(1950、60年代のオリジナル盤等)は当然、雑にクリーニングしてはいけません。
私が通常行っている汚盤のクリーニング方法は次のとおりです。
① DL-103クリーニング
DL-103の様な重めの針圧、太めのスタイラスでレコードを3、4回掛けるとパチパチが無くなる場合があります。レコード盤の最外周や最内周でもパチパチしている場合、そこだけ数回針を通すとパチパチが直ってる場合があります。そんな盤の場合は効果てきめんです。
面倒ですが、これで全体を3、4回トレースすれば当然パチパチが治まります。
直らない場合は次に進みます。
② 雑巾がけ
ガーゼを日用品屋で買ってきます。それを水道水で流し、固く絞ります。
綺麗なテーブルの上にレコードを置き、盤面をレコードの溝に沿ってゴシゴシ拭きます。この時、爪がレコード面に触らないよう注意します。結構な力を入れても大丈夫です。レコードの溝は、面で圧力を掛けても傷つきません。
部分的な汚れやカビ何かもこの方法でOKです。蚊等の虫が張り付いた場合にも使えます。ただし、ターンテーブルの上でゴシゴシすると軸受けに負担がかかるので、綺麗に掃除したテーブルの上でやった方が良いと思います。(小さく固まったゴミが付着している場合は、爪楊枝を水に濡らしてシコシコする場合もあります。)
中性洗剤や溶剤を薄めて使う方法もあるかと思いますが、私は水道水でやってます。常にガーゼの綺麗な面をレコードに当てます。
強者のなかには、歯ブラシ(デンターシステマ等)でブラシ掛けする人もいる様ですが、そんな大胆なこと私にはできません。
大概の場合はここまでで大分パチパチはなくなりますが、直らない場合は次に進みます。
③ ボンドクリーニング
最終手段はボンドクリーニングです。昔からある方法で、私の経験ではこの方法が一番効果があります。時間も掛かり面倒くさいので滅多にやりません。接着剤でゴミを剥離するのですからこの方法でダメなら諦めた方が良さそうです。
メーカーからも「レコパック」とか「ディスコフィルム」の商品名で販売されてました。結構昔から使われていた効果と信頼性の高いクリーニング方法だと思います。
使用するボンドは固まったとき、ふにゃふにゃな白い速乾性木工用ボンドが最適です。(固まって硬くなるのは選択から外します。)私はセメダインの黄色いパッケージの速乾性を使用していますが、これでなければならないと言うことはありません。
レコードを綺麗なテーブルに載せ、上からうにゅーとボンドを塗ります。1mm位の厚さでしょうか(測った訳ではありません。感覚的にです。)黒い盤面が見えない程度、厚めに塗布します。
一晩位置くとボンドが透明になりますので、この状態でエッジの部分からボンドを剥がして行きます。(ボンドが白く残っている状態で剥がすとボンドが盤面に残りますので、振り出しに戻ってもう一回塗布します。)大抵の場合剥がし残しは、ないと思いますが、ありましたらセロテープで貼って取り除きます。(取れない場合は綿棒にアルコールを少量付けて拭きます。)
剥がすときに静電気が発生しますので、剥がしたらターンテーブルに暫く置いておきます。
↑ このレコード、盤面の見た目は綺麗だったのに、盛大なパチパチノイズが発生しました。数回聴いても全然治まらなかったためボンドクリーニングしてみました。写真は半分乾いた状態です。
レーベルカバーをしてボンドを惜しみなく塗布します。(ボンドが厚い方が剥がし安い)
クリーニング剤の業者で、この方法を否定している者がいますが、裏を返せばそれだけクリーニング効果が高いと言うことなのでしょう。
↑ これぐらい透明に乾燥したら、ゆっくり剥がします。一晩くらいは乾燥させた方が良いと思います。
↑ 凄く気持ち良いです。日焼け後の皮めくりみたいです。レコード盤の溝がしっかりコピーされます。
↑ おもちゃの顕微鏡で見てみました。白い点々がくっついていてますが、これがゴミでしょうか。パチパチ音は見違えるほど消えます。
右は断面です。ボンドが音溝の奥までしっかり染みてます。
この方法は最終手段です。これで取れないゴミは諦めた方が良さそうです。
あきらめ
冒頭にも言いましたが、レコード清掃は人生修行です。囚人を狂わす労働でもありますが、悟りを開けばパチパチも音楽になる様です。(私は今だに解脱できてませんが。)
しかし、よく考えると、ジャズでもロックでも、ピカピカで安価な国内盤よりも、キズキズで高価なオリジナル盤の方が珍重されているではありませんか。「日本盤とオリジナル盤では音が全然違うよ。」という声が聞こえてきますが、本当にそうでしょうか。確かにそう言うレコードは沢山あります。しかし、全部が全部そうでしょうか。
日本人は自国の技術にもっと自信を持って良いと思います。輸入盤よりも音の良い国内盤だって沢山あります。
もしも、パチパチのどうしても取れない安レコードがありましたら、高価なオリジナル盤を買ったと妄想して目を閉じて聴いてみてください。
良い音に聴こえたら悟りが開けた証拠です。
(ところで市販のクリーニング液を使用しクリーニングする方法もある様ですが、私は信用してません。)
レコードの反りは直せるのか
反ったレコードを直す装置の実験?
いつもの様に近所のブックオフの500円レコードコーナーを探していると思わぬものに出会いました。ブックオフの大半のレコードはクズ盤ですから、そう真剣には見てませんでした。その中で、ジャケがなく紙のインナースリーブに入ったレコードがありました。どうせヒップホップ系のレコードだろうとレーベルをみると、カタカナでレッドツェッペリンⅢと書かれています。アトランティックレーベルのカラーでなく青いデザインです。よく見ると日本グラモフォン製で見本盤、非売品と書かれているではないですか。私にとってこれは貴重なお宝盤です。
↑ 知る人ぞ知るレッドツェッペリンⅢの国内オリジナルのグラモフォン盤で、なんと見本盤ではないですか。「これが500円なんてブックオフ大好き」と思いつつ検盤もせずレジへ直行。レジのお姉さんが何故か不穏な動き。このレコードを奥に持って行き、何かスタッフと相談しています。「や、や、このレコードの価値に気付いてしまったのか」と思いつつ不安になる私。
「すみません。このレコード、ジャケットが欠品なので300円にさせていただきます」とのこと。ほっと一息、折角なので300円で購入させていただきました。
ところが
世の中そんなに甘くない。盤面は新品同様で、これにヤフオクかなんかでジャケだけ手に入れれば完品じゃんと思いつつプレーヤーに載せたら”がーん”です。1センチ位片方が浮き上がっているのです。あちゃーと思い、スタビライザーを載せたりしましたが、A面では何の効果もありません。(B面ではトレース可能になった)アームの共振周波数によってもトレース能力が変わりますので、針圧を変えたり違うカートリッジにしましたが、反りが酷過ぎてダメです。これは禁断の「反り修正」をするしかありません。
反りの修正
過去にも反り盤の修正を試みて来ましたが、その成功率は非常に低く、直らないか余計に酷くなる場合がほとんどです。Youtubeとかグーグル先生に聞いてみると次のことがわかりました。
① 温度は55°Cから60°Cが適温であること。
② 加熱時間は1時間以下が良いこと。(冷却はゆっくり常温まで自然冷却する)
③ 直らない盤もあること。
以上3点が重要であるようです。①は特に大切で、常温でいくら圧を掛けても修正できませんし、高温では盤が溶けてしまいます。②もそうです。いくら低温でもやはり長期に渡りストレスを加えることは良くないようです。③はある意味①、②よりも重要なのですが、自然に反った盤なら直すことができますが、ヒートダメージを受けた盤はそもそも直らないようです。
都市伝説の様に言われている、ガラス板に挟んで半日間日光に晒すなんてもってのほかだったんですね。勉強になります。
反り盤修正器
と言う訳で、本格的?なレコード盤の反り修正器を製作しました。(従来、ガラステーブルの上にレコードを載せ、その上からガラス板を被せ上下から電気ストーブであぶっていた。時間はメッソで成功する場合もあった)
反り盤修正器の材料は、
① 電気ホットマット(温度10段階調整30cm×60cm)アマゾンで2000円位のやつ)
② ガラス板31cm四方で厚さ5mmのやつ2枚(アマゾンで2枚組3000円位のやつ)、それと、束ねるベルト
③ 温度計(某温度計でも良かったのだけど見やすさからデジタルのもの)中華製
④ 断熱シート(日用品屋で切り売りのやつ)
↑ こんな感じで、後は温めるだけ。(インナースリーブを付けたままにしたのは後で後悔)
↑ こんな温度計だったら温度管理はバッチリ良好かな。(2個で800円)センサーは直径3mmの棒状でした。
結果
購入した断熱材を袋状に加工し、その中にホットマットに包んだガラス板で挟んだレコードを入れ加熱します。(それを断熱材の内張りをした断ボールに入れました)夏季であれば1時間ほどで50°Cを越え、そのまま電源を断にします。(温度センサーをガラス板に付けたのでタイムラグがあるため、52、3°Cで電源を切りますが、切ってからも2,3度温度上昇します。)
十分に冷めてからレコードを取り出します。
ふと見ると、インナースリーブが皺々になっていました。嫌な予感が頭をよぎります。
「ガーン」その皴々がレコード面にくっきり写っています。ビニ焼けみたいな感じです。
しかし、こんな状態であっても、反りが直っていれば半分成功と言えます。恐る々々ターンテーブルに載せてみます。
「反ってない」これは成功でしょうか。針を落とします。
あちゃー、ダメだこりゃ。
確かに縦の反りが無くなったのですが、横揺れが激しくワウも盛大です。これは完敗です。
よく考えて見たらあれだけ大きな反りです。その歪みがそう簡単に吸収されるはずがありません。縦反りが横に移動するのも分かります。こうして私のレッドツェッペリンⅢの日本初盤プロモの夢が瓦解しました。
↑ その後、他のレコードで再挑戦。これは見事に成功。(勿論、インナーは脱がし加熱しました)投資した金額からするともう30枚位直さなければ元が取れませんが、反ったレコードがそれほどある訳ではありません。レッドツェッペリンⅢが悔やまれますが、あれはプロでも直せなかったでしょう。(と考え、諦めてます)何事も欲をかいてはいけません。(しくー)