もう40年も前になりますが、名古屋の大須に「オーディオ専科」と言う店がありました。真空管アンプや、それに使用するパーツ類の店で、店内では常に音楽がかかっていました。アルテックの同軸型スピーカーから聴こえる弾むようなその音は、まだ20代前半だった青年の心をつかむのに十分なものでした。オーディオ店でふと聴こえてくる音楽は何で良い音なんでしょう。不思議です。それからオーディオ専科の店主は私の師匠となり色々なことを教えてくれました。
なんか爺さんの回想録みたいな話ですが、これは1980年代のことで、時代は既に半導体全盛期で、真空管は現在よりも古めかしいものでした。(現在は真空管も復権してますもんね。)
その後、店主は横領罪でクビになり、名古屋のオーディオ専科は店を畳んでしまいました。元々は東京神田に本社がある店で、名古屋は赤字だったのでしょう。文化不毛の地、名古屋ですからそういう商売は、かなり難しかったと思います。
クビになった店主は、森川忠勇先生(オーディオ専科の社長でオーディオ界では有名な設計者、ライター)にも会わせてやると言ってましたが、叶わぬ夢でした。それから何年か後、東京のオーディオ専科本店に行った時に森川忠勇先生にお会いしましたが、名古屋の師匠の不祥事のこともあり、まさか「あなたがクビにした師匠の弟子です。その節はえらい目に遭いましたね。お会いできて光栄です。」とも言う訳にもいかず、少しの部品だけ買って帰りました。
そのような時代に師匠から購入したのがトップページに記載した真空管アンプです。2A3を出力管に使用したシンプルな真空管パワーアンプです。
↑ これは数年前に撮影した写真ですが、銘板なんか昨日買ってきた機器みたいに輝いてます。(実は最近まで保護ビニールが貼ってあった。)真空管アンプの良いところは、能動部品である真空管がソケット式のため不良になったら取り換えられることです。したがって寿命が滅茶々々長いです。インバータ式の照明は必ず壊れ廃棄されますが、白熱電球は死ぬまで使えるのと同様です。
それでも、40年間使用するためにはメンテナンスは欠かせません。ただ、真空管のフィラメント(ヒーター)は意外と切れません。これまで1、2回交換しただけです。電解コンデンサーも意外と長持ちします。流石は日本製、電解コンデンサーだけは日本のものを使いましょう。
メンテナンスの開始
次はメンテナンスの記録です。(40年目とは言っても前回のメンテがいつだったかは全く覚えてません。)
-
裏蓋開封
シャーシの底板を外します。左下がブロック電解コンデンサーです。4個とも交換します。
-
ブロック電解コンデンサー
シャーシ裏から見たところです。全部半田付けですが、再利用しないので足を強力ニッパーで切断します。
-
撤去
古いものを撤去します。気のせいか古いものは若干軽いような?フィルムはそのまま使います。
-
更新完了
新しいものに更新しました。今まで気付きませんでしたが、古いコンデンサーの下のゴムが大分劣化しておりました。液漏れがなくて良かったです。
-
バイパスコンデンサー
初段のバイパスコンデンサーも電解コンデンサーです。(写真の右側のチューブラ)ついでにタンタル電解に取り換えます。タンタル電解は長寿命です。
-
撤去品
30年以上もありがとう。って感じです。これを更新したことで電源投入時のボソボソ音が解消しました。ブロックコンデンサは捨てて写真がありません。
-
ハーメチックタンタル
若松通商で購入したハーメチックタンタルに更新しました。容量が足りないので2個パラ接続です。
-
更新終了
これでまた2、30年は使えます。人間も部品の取替えができればいいんですけどね。(その後すぐ不具合?が)←次の項目参照
ボリュームやハムバランサーも取り換えれば良いかも知れませんが、オリジナルも残したいと言う気持ちもあります。ちなみにハムバランサーは固定抵抗で対応してます。
自作品等で固定バイアス電圧をボリュームのみで設定するものが多くありますが、ボリュームの劣化を考えると不安です。ボリュームの摺動端子がオープンになったときバイアスが深くなるよう設計しなければなりません。
↑ これで終了です。以前は師匠からいただいた4μFの筒型オイルコンデンサーも付いていたのですが、何時だったか不細工なので撤去しました。
↑ メンテ終了です。ブロックコンデンサーが4個ありますが、実は茶色の2個は2A3のカソードバイパスコンデンサーです。普通ならチューブラ形(アキシャルリード)を使用しシャーシ内部に収めてしまいますが、ここにブロックコンデンサーを使うのは森川忠勇さんの仕様です。
その後不具合?発生
40年目も相変わらずメンテナンス
真空管試験機の頁で自作した真空管試験機で、現行の本アンプを試験している時発見したのですが、RchのRCA2A3が大分お疲れの様で、真空管を横に寝かせるとフィラメントとグリッドが接触してしまうのです。アンプに挿し戻すとバリバリ雑音を発生し、プレート電流も最大値まで流れます。
これは、出力トランスに影響が出ない内に取り換えるのが賢明です。(真空管を立てた状態で壁面のガラスをコンコン叩くと復旧する)
ところが取り換える球がありません。UY-807プシュプルモノラルアンプを製作した時に、価値のある球を売って、製作資金にしまったのです。2A3はRCAのものが数組あったのですが全部売却してしまいました。1組くらい残しておけば良かったと大反省です。
しかし、良いものがありました。「こんなもん値打ち無いじゃん」と思って売却しなかったソブテックの2A3です。

↑ ソブテックの2A3です。1枚プレートでミニ300Bとも言える風合いでなかなかグッドじゃないですか。(実は300Bプシュプル真空管アンプの頁で製作したアンプで使用していたもの、スイッチの切り替えで300Bも2A3も使えるアンプ)←優秀なアンプだったけど大きさと重量に負けて分解した。
ところがどう言うことでしょう。このソブテックの2A3、RCAの2A3と比較しベースからの高さが15mmも大きいのです。勿論ソケットは同じなので電気的には何の問題もないのですが、そのまま取り換えた場合整流管との見た目のつり合いが取れません。正三角形に並んだST管のバランスが崩れてしまいます。共産圏ではST管の規格が違うのでしょうか。これは同じソブテックで整流管を探す必要がありそうです。
↑ ありました。でかい整流管。やはりNOS米管や国内管は規格どおりの大きさで、でかいのは存在しませんでしたが、中華製のプスバン5U4Gはでかいです。ソブテックの2A3とほぼ同じ大きさでバランス良好な雰囲気です。
また、今回初めてのハムバランサーを取り付けることにしました。2A3のシングルアンプなのでハムバランサーは必須なのですが、森川忠勇さんの設計では固定抵抗だけになっているのです。森川さんはその抵抗器に適当な抵抗を抱かせることにより調整して欲しいと言ってましたが、一寸面倒です。フィラメント電圧が2.5Vなのでハムはそれほど大きくはないのですが、調整は必須なのでA&Bの50Ωのハムバランサーを設置しました。(これも分解した300Bプシュプル真空管アンプから流用しました)
↑ A&Bは何故かかっこいいです。今回は現回路に並列に設置しました。ボリュームの中点にはバイパスコンデンサーのみを接続し、このボリュームにはACしか流さない様にしました。

↑ ハムバランサーを設置しました。ボリュームの中点から2A3のカソードバイパスコンデンサーに接続してあります。ボリュームの右側は整流管で5Z3のUXソケットから5U4GのUSオクタルソケットに変更しました。
最終版の回路図は次のとおりです。
よくよく見るとこのアンプ、シャーシがベタアースになっています。通常はアース母線等を使用しシャーシには電流を流さない様しますが、この様な方法でも2A3ならハムは心配ないと言うことでした。(師匠が言っていたかオリジナルの組み立て説明書がそうなっていたと思います)←組み立て説明書が無線と実験誌のコピーだったと思う。
↑ 最終的な内部構造はこんな感じになってます。これで後10年以上は使えそうです。
↑ 出力管と整流管が大体同じ高さになりました。ハムバランサーは3本の真ん中に設置したので見た目は良好です。プスバンのフィラメントが凄く明るいのが気になります。
雑感
このアンプはNFBはなく(局部的NFBもない)、周波数特性もギリ20kHz、出力も3Wしか出ません。こんなもの使い物になるのか?みたいなスペックですが、世の中の数値では表せないものの代表みたいなもので、棺桶に入れてもらいたいものの一つになっております。
WE300Bについて
そういえば昔師匠に「WE300Bって言う素晴らしい真空管があるらしいじゃないですか。」って聞いたら、「300Bなんてものは散々真空管を弄り回した人が最後に行き着くところだ。あんた若いんだから、もっと色々やってみな。」って言われました。今になって分かるのですが、300Bなんて数ある真空管の中の一つです。まあ音は悪くありませんが、世の中に音の良い真空管は沢山あります。現在、300Bが初心者の球で5極管がプロの球みたいな取り扱いですね、ネットの悪影響でしょうか。
私もWE300Bは使ったことがありますが、(先輩からお借りして)落ち着きのある音色で、クラシック向きと言う印象でした。名古屋のツゲ電機に大量の在庫があり、将来、もしも金持ちになったら購入しようって思ってました。
しかし、数年後に300Bの大ブームが起こり在庫は一掃されました。その時買わなかったことについて、後悔はしてません。私には2A3が最高に合っていると思っているからです。ただ、安価だった2A3も高価になってしまったのが残念です。
ところで、ツゲ電機のオジサンも私の先生なんですが、300Bは高い電圧で使わないといい音しないって言ってました。規格以上の高電圧をかけても大丈夫だそうです。貧乏人のアンプは球を長持ちさせたいがために低い電圧で使うからクラシック向きの柔い音になるんだそうです。(ツゲ電機のオジサン元気かな、貧乏人の私にはそんな大胆なことできません。)