AMラジオの頁で書きましたが、5球スーパーラジオ(5本の真空管を使用したスーパーヘテロダイン方式のラジオ)は、ラジオ少年の生き残りである私ら1960年代生まれの者には憧れの、名実ともにスーパーなラジオでした。
当時の中学生で、こんなものを製作している友達は無く、作っているオジサンを見つけたら憧れの的になっていたことでしょう。それほどこの5球スーパーラジオは孤高の存在の様に見えていました。(そもそも部品が高価で中学生の買うものでは無かったし、キットも売られてましたが、大人の買う値段でした。)
それから50年を経過した現在、「憧れを捨てましょう。」と言う訳で、今回、2028年問題(AMの中波放送がFM放送に切り替わり、AMラジオがレジェンドになる問題)にもめげず、真空管ラジオを製作してみました。
設計方針
2024年の現代において、真空管スーパーラジオを製作しようと思っても、真空管用のIFT(中間周波トランス)、バリコン、同調コイル、パディングコンデンサー等がありません。真空管自体は、まだある様なので、ここではトランジスタ用の部品を流用することにしました。設計方針は次のとおりです。
① 真空管以外はトランジスタ用の部品を使用する。
② ダイオードを使用する。(整流管は使わない。)
③ 外部アンテナ無しで聴こえる様にする。
④ 電源トランスを使用する。(トランスレスにはしない。←感電が怖いので)
⑤ プリント基板を使用し、コンパクトに製作する。(シャーシは使わない。)
⑥ アクリルケースを使用し真空管を強調する。(自己満足)
単球スーパーラジオ
↑ 10×20×10cmのアクリルディスプレイケース内におさめてあります。アクリルで3mm厚もあればかなり頑丈です。安いスチロールでも透明感は同じですが、アクリルは傷つきにくくグッドです。このケース5面体なので、底板は通常のアクリル板で製作しました。調整等でケースを開ける時は底面からなので、メンテナンス性は良くありません。
↑ 回路は誠文堂新光社の真空管レフレックス・ラジオ実践製作ガイドを参考にしました。
1つの素子でスピーカーを鳴らすラジオを製作すると言うのは、半導体ではICでしか実現できないと思いますが、真空管であれば単球でスーパー方式のラジオを製作できます。回路はレフレックスのスーパーヘテロダインで6AW8Aの3極管部分で発振、混合、5極管部分で中間周波と低周波の両方の増幅を行います。
バリコンには大型のポリバリコン(330pF×2)を使用しましたので通常のスーパー用バーアンテナを30巻きほどほどき250uH程度にしてあります。(通常は600uH程度)バーアンテナはフェライトバーの中央に巻き線がある時に最大インダクタンス、端の方で最小になりますので、微調整は位置により可能です。フェライトバーから巻き線がはみ出すと誘起電圧が低下しますので注意します。
発振コイルも同様に30巻きほどほどき120uH程度にしてあります。(通常は270uH程度)これもコアの調整により大幅に可変可能なので大雑把です。
回路定数は非常に微妙(絶妙)で復同調のカップリングを小容量にすると発振します。
感度、音量ともそこそこで、NHKは外部アンテナなしでも十分な音量で聴けますが、弱い局は数メールのビニル線を付けなければ鳴りません。(アース線は要りません。)
↑ 左は今回使用したバリコン(330pF×2)です。名古屋のボントンで購入しました。空気バリコンの様に見えて実はポリバリコンです。FM用の小容量も付いてます。上部に取り付けてあるトリマは後付けです。スーパー方式ではこのトリマの調整が重要です。感度が大きく変わります。
右はトランジスタラジオに使われている(使われていた?)親子ポリバリコン(150pF+90pF)です。現在でもなんとか、これに合うバーアンテナや発振コイルが販売されてます。
後悔
真空管ラジオっぽくしたくて大型の(と言っても小さいけど)基板付けポリバリコン(等容量で330pFの2連)を使用しましたが、当然それに合うバーアンテナや発振コイルはありません。今回は巻き数を減らして使いましたが、よく考えたら、普通のトランジスタスーパーラジオ用のポリバリコンを使えば良かったと思いました。
と言う訳で、次の3球スーパーラジオは普通のポリバリコンを使用することにしました。
3球スーパーラジオ
↑ 上記の単球スーパーの半分のアクリルディスプレイケースを真ん中で合わせました。寸法は同じ10×20×10cmです。メンテナンス性は良くなりましたが、見た目が一寸ブサイクかな。
単球スーパーの感度が今一つだったので、バーアンテナは少し大きめのものにしました。
↑ 単球スーパーラジオでも使用した6AW8Aは、3極管部分を低周波電圧増幅、5極管部分を低周波電力増幅と低周波のみを担当していただき、6BE6で発振、周波数変換、6BA6で中間周波増幅します。トータルゲインは70デシベルほどあり普通のスーパーラジオと同様です。
使用部品は、全てトランジスタ用で無改造です。(コイル類も巻き戻してない。)
ここで分かったのですが、わざわざ真空管用のアンテナコイル、発振コイル、バリコン、IFTを使わなくともトランジスタ用で代用できます。
IFTの一次と2次の間の耐圧が少し気にかかりますが、今のところ問題ありません。
トランジスタ用のバーアンテナや親子ポリバリコンは優秀で、少しの調整により、アンテナ線など無くてもガンガン鳴ります。(勿論、パディングコンデンサーは不要です。)
ところで余談ですが、6BE6の7極管って凄く便利です。元々この様な用途の球なのですが、最小の部品数で安定な発振、周波数変換が可能です。
製作過程
単球、3球ごちゃ混ぜですが、製作過程を紹介します。
-
基板の露光
いつもの様にサンハヤトの感光基板を使い製作します。ガラスエポキシではなく安いベークにしました。(ラジオだもんね。)
-
エッチング
サンハヤトのマグネットクランプ(基板を固定するアクリル板)を使用するようになってから失敗がありません。(たまにパターンの裏表を間違えるけど。)
-
基板の完成
左は空気バリコンに見えますが、実はポリバリコンで羽の間にフィルムが設置されています。トリマーは錆びていたので単体のものを取り付けました。
-
真空管取付け
MT管は7ピンサイズと9ピンサイズがあります。7ピンの方がコンパクトでかわいいです。電力増幅管なんかだとMT管でもでかいです。
-
調整
ケースに入れる前に100円ショップの木材に固定し調整します。単球スーパーの調整はかなりシビアーです。本当にスーパーとして動作しているか心配になります。
-
手直し
6BE6のコントロールグリッドと発振用グリッドのピン番号を間違えてました。パターンを切ってテレコにしました。(ちょくちょくあります、こう言うこと。)
-
ケース加工
アクリルは穴開け時にピシッと割れてしまうことはありません。アクリル屑で傷つくこともなく頑丈で使いやすいです。シャーシなんかより全然良い?
-
完成
ケースに入れて完成です。バリコン軸の穴はツマミに隠れる最大値にしました。そうしないと底板が外れなくなります。
感想
真空管ラジオはアンテナ線(数メートル以上のビニル線)が必ず必要なものだと思ってましたが、バーアンテナを使用すればトランジスタラジオ同様で全然問題ありません。
高価な真空管用の並四コイルとかスーパーコイルとかを使わなくてもOKです。IFTも発振コイルもトランジスタ用で良いみたいです。
真空管の場合、IFの段間は2次巻き線を使わず復同調にした方が効率的です。同調点をピッタリ455kHzに合わせると利得が上がり過ぎ発振する場合があります。したがってコアの調整を、片方を右側に、もう片方を左側にして利得を抑えるとともに帯域を広げます。
金属シャーシを使わないとハムや雑音が心配でしたが、実用上は問題ありませんでした。トランジスタラジオの場合にはPETの透明ケースに組んでますが、同じく問題ありません。SN比を60デシベル以上とりたいオーディオ機器では問題でしょうが、ラジオなら全然平気でした。