Musical Fidelity A300R

岡崎市にMusical Fidelityの輸入元(代理店)がありました。H&Kと言うオーディオ屋なのですが、小さな店の割に大きな商売して大変だったんじゃないかと思います。Musical Fidelityはイギリスの新興オーディオメーカーなのですが、昔から結構いい音させておりました。特にプリメインアンプのMusical FidelityA1は有名です。(1980年代の製品ですが。)カタログが物凄くシンプルで、特性至上主義みたいな日本の製品と違い、カタログに技術的な賛辞が全くなく、H&Kの社長も「感性で売る」って言ってました。
30年以上(直に40年)も前の話ですので、今はH&Kはなく、Musical Fidelityの輸入元も変わってしまったと思います。しかし、良いものは残ります。三河地方のハードオフにはやたらにMusical Fidelity製品が多いのです。
私もMusical Fidelity製品が好きで、メインシステムで使用しているパワーアンプはMusical FidelityのA300Referenceです。(Musical FidelityではインテグレーテッドアンプのA300と言う機種がありますが、それとは全く異なるものです。)

A300Reference

 

修理体制

Musical Fidelityの最大の欠点は日本で修理がきかないことです。壊れたら捨ててしまうことを考えなければなりません。オーディオ販売店が輸入元でしたからこんな事態になったのですが、これは輸入品全般に言えることで、サービスセンターがある方が少数だと思います。
と言う訳で例により自主メンテナンスすることにしました。

不満な点

今はどうか分かりませんが、Musical Fidelityを愛用している人は、よくこう言います。「音は良いんだけどねー。」と。私のA300Referenceも最初のうちはその音質に感動し不満なく使用していたのですが、1か月経ち、2か月経ちすると、だんだん不満が出てきます。それは、

①小さいながらハムが出る。(無音時にスピーカーからブーンと音がする。)
②電源投入時にスピーカーから「ボコ」と音がする。
③利得が高過ぎ、プリのボリュームを一寸上げると爆音になる。

日本製のアンプで、こんなこと絶対にありません。びっくりしたのは①で、深夜、スピーカー端子を外した状態でも「ブーン」と鳴ってました。遂に神経がやられたかと思いましたが、よく聞くと本体自体が鳴ってます。使われている電源トランスがケースなし、ダンプ材なしの巻きっぱなし状態だったのです。それがL、R独立で2個入ってますから音も大きいのです。これは対処のしようがありませんでした。(その頃の日本製のトロイダルトランスは必ず金属ケースに入れられ、ダンプ材に浸かってました。)
普通のオーディオマニアは、このような不満点が発見するると直ぐに買い替えてしまうのですが、これはいけません。買い替えてもこれ以上の音質になるとは限らないからです。同じMusical Fidelityの上位機種に代えたとしても基本的な設計は同じですから改善されるとは思えません。

改善

製造メーカーの音質を残しつつ欠点を補修する。日本人の真骨頂である「改善」です。しかしながら日本にはサービスセンターがありません。昔はサービスセンターに行って頼めば、回路図程度ならコピーしてもらえたのですが。(もっと昔は取説に回路図が付属していた。)
仕方がないので現物から起こすことにしました。パワーアンプなんて回路は大体似たようなものです。(と思っていた。)ところがこのアンプ、一般的なアンプとはまるで違う回路構成だったのです。

①初段はオペアンプICなのですが、入力ピンがアースに落としてある。
②2段めはベース接地、3段めはコレクタ接地です。
③終段はソース接地です。

特に③については不思議に思いました。世の中に出回っているほぼ100パーセントのパワーアンプの終段は、ドレイン接地(コレクタ接地)です。どの教科書等にも最終段はそうしなさいと書いてあります。(雑誌の自作記事では、エミッタ接地出力もありましたが、極少数です。)
これが高音質の秘密の鍵でしょうか。以前、無線と実験誌で、安井彰先生が、最終段に利得を持たせることにより初段にオペアンプが使用できる(使用し易くなる)と書いておられた記憶がありますが、詳細は分かりません。しかも、現在主流であるコレクタ接地には、音質上の弊害もあると書かれていた気がします。


これがオリジナルの回路図です。基板起こしなので間違っているかも分かりません。

プチ改善ですが、やっちゃいました。(どうせ保証はありません。)

不満点①(ハム)に対する対処
基板からスピーカー端子までの内部配線にキャンセラーループを挿入しました。
その他、RとLのユニット配置を入れ替えオペアンプICと電源トランスの距離をとりました。また、入力のカップリングコンデンサーを形状大きいメタライズドフィルムコンデンサーから小型の積層フィルムコンデンサーにしました。

不満点②(電源投入音)に対する対処
ミューティングリレーを挿入しました。名古屋のジャンク屋(ボントン)で購入したミューティング・プロテクタ基板キットです。リレーはオムロン製に取り換えてあります。(ロングセラーの基板キットです。)

不満点③(利得)に対する対処
NFB抵抗を変更(390Ωから1kΩ)し利得を下げました。(-8dB)ただし、利得を極端に下げると発振の心配がありますし、音質が変わってしまっては元も子もありません。これは綿密に調整しました。①に対する効果も絶大です。

ただし、ここでも妥協が大切です。細かいことに拘り過ぎてはいけません。①に関しては本体から発せられる振動よりもスピーカーから発せられる音の方が低ければOKです。

 改善状況

トランスの漏洩磁束(リケージフラックス)について

パワーアンプの電源トランスからは膨大な漏洩磁束が出ています。イヤホンプラグを20cmくらいの輪っかにした導線でショートさせ、それをトランスに近づけるとイヤホンからブーンと音がします。本機は各チャンネル2つのスピーカー端子がありますが、適当に配線しますと同じLチャンネルでも、端子1と端子2では配線長の違いからハムの大きさが変わります。配線が極力ループ(輪っか)にならないようします。(プラス側とマイナス側の線を近接させる。)
ハムキャンセラーは配線をわざとループにしてトランスに近づけてハムをキャンセル(逆相合成)するものです。うまくキャンセルしないと元の状態より大きくなってしまいます。(同レベルの逆相で混合するのが大切。)

 

↓ 改善後の回路図です。1枚にミューティング・プロテクタは入りませんでしたので2枚構成です。
多少の音質の変化はあるかも分かりません。しかし、不満点はなくなりました。

↓ ミューティング・プロテクタはこんな感じです。よく考えられてあります。今度ボントンにあったらまとめて買っておきます。

 

A級詐欺問題

Musical FidelityのA300を含め兄弟機のP270もA級バイアスと言われておりますが、そんなことはありません。カタログにも「音楽信号の90パーセントをA級で動作させた。」みたいに書いてあるだけです。定格出力電力までA級で動作するとは何処にも書いてません。実際のバイアス電流を測定しますとA級範囲は5W程度です。もしも、100WまでA級にしようとした場合、無信号時の消費電力が余裕で500Wを越えてしまい、直ぐに熱で壊れてしまいます。
世の中には昔のMusical Fidelity製品、特にA1を定格出力までA級動作と思っている人が沢山いる様ですが、アンプを自作した経験のある人なら、パッと見で「んな訳ないじゃん。」と分かります。
当時、音楽信号の90パーセントは5W以下だったのです。(ピークが100Wだった場合かな、誰が測定したかは知らんけど。)今の音楽ソフトはコンプレッサーがバンバンかけられているので、平均レベルが上がっておりますので、この売り文句は使えません。ただし、5WでA級のバイアス電流でも、終段FETには100W出力が出せる電圧が加えられておりますので、放熱板はかなり熱くなります。ちなみに、世の中一般の100W級のパワーアンプのA級出力範囲は1W以下です。(A級アンプを使用するなら小出力アンプの方が絶対に有利です。日本製の真面目なA級アンプに50W程度のものがありますが、夏は大変じゃないでしょうか。)

雑 感

人間と同じで機械も必ず何らかの欠点があります。欠点のない人間なんて面白くも何ともありません。欠点があるからと言って捨ててはいけません。短所と長所は表と裏です。ところで、この時代のMusical Fidelityのパワーアンプは日立のパワーMOSFET(2SJ50、2SK135又は2SJ162、2SK1058)を5パラで使用したものが多くラインナップされてました。どれも素晴らしい音を聴かせてくれました。